交通事故の補償はどこまで? 被害者が受けられる賠償金と請求方法
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交通事故の被害に遭うと、事故による怪我の治療費や仕事を休んだことによる収入減など、被害者に生じる損害は多岐にわたります。
このような損害について補償される範囲や金額はケースごとに異なり、適切に請求するには一定の知識が必要です。
今回は、交通事故で被害者が受けられる「補償の内容」「損害賠償の請求方法」「保険会社との交渉術」、そして「弁護士に依頼することのメリット」について、ベリーベスト法律事務所 銀座オフィスの弁護士が解説します。
1、交通事故の補償とは? 被害者が受けられる損害賠償
交通事故の被害に遭った場合、加害者や保険会社に対して損害賠償を請求することができます。損害賠償には、さまざまな補償が含まれますので、まずは交通事故の補償内容や保険制度、慰謝料の算定基準についてみていきましょう。
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(1)保険会社から受けられる補償の内容と項目
交通事故の被害に遭った場合に保険会社から受けられる主な補償としては、以下のような項目があります。
① 治療費
怪我を負った場合の入通院費、手術費、投薬費などが含まれます。
② 通院交通費
病院への通院にかかった交通費も補償の対象となります。バスや電車などの公共交通機関を利用した場合には実費相当額が、自家用車を利用した場合にはガソリン代(一般的に1キロメートルあたり15円)が支払われます。
③ 休業損害
事故によって仕事を休まざるを得なかった場合、その期間の収入減が補償されます。給与所得者だけでなく、自営業者やパート・アルバイトでも請求可能です。
④ 慰謝料|入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料
慰謝料とは、事故による精神的苦痛に対する補償です。交通事故の慰謝料には、以下の3種類があります。・入通院慰謝料
事故によって怪我を負い、入院・通院を余儀なくされた場合に支払われる慰謝料です。通院日数や入院日数に応じて金額が算出されます。
・後遺障害慰謝料
事故による怪我が完治せず、後遺障害が生じてしまった場合に支払われる慰謝料です。後遺障害等級は1級から14級まであり、等級によって慰謝料額が大きく異なります。
・死亡慰謝料
死亡事故の場合、被害者本人が被った精神的苦痛は存在したものと考えられ、その慰謝料請求権が認められます。そして、この慰謝料請求権は相続によって遺族に承継されます。したがって、配偶者・子・父母などの相続人は、加害者に対して被害者本人の慰謝料を請求することができます。
さらに、被害者本人の慰謝料とは別に、近しい家族を失ったことによる遺族自身の精神的苦痛に対しても慰謝料が認められます。これは「遺族固有の慰謝料」と呼ばれるもので、被害者本人の権利を相続して請求するものとは区別されます。一般的に、配偶者・子・父母などの遺族について、この固有の慰謝料が請求可能とされています。
⑤ 後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益とは、後遺障害によって将来得られるはずの収入の一部を失うことに対する賠償金です。後遺障害逸失利益は、後遺障害等級が認定された場合に請求することができます。 -
(2)自賠責保険と任意保険の違い
交通事故により生じた上記の損害は、事故の責任のある加害者に対して請求することになりますが、加害者が保険に加入している場合、保険会社から補償を受けることができます。
交通事故による損害の補償が受けられる保険としては、「自賠責保険」と「任意保険」の2種類があります。
① 自賠責保険
自賠責保険とは、すべての自動車・バイクに加入が義務付けられている国の制度です。被害者救済を目的としており、人身事故(怪我・死亡)に対して最低限の補償を行います。- 傷害:最高120万円
- 後遺障害:最高75万円~4000万円(等級により異なる)
- 死亡:最高3000万円
ただし、物損(車両や建物の損害)には適用されません。
② 任意保険
任意保険とは、自賠責保険では補いきれない部分をカバーするための保険です。加入が強制されている自賠責保険とは異なり、任意保険への加入は任意とされていますので、加害者が任意保険に未加入の場合には任意保険からの補償は受けられません。
任意保険による補償は、自賠責保険のような限度額が設定されていないものが多いため、交通事故の被害者は、基本的には任意保険から損害の補填を受けることになります。 -
(3)慰謝料の算定基準には3種類ある
慰謝料の金額を算定するための基準には、以下の3つの基準があります。
① 自賠責保険基準
自賠責保険基準とは、自賠責保険で定められている最低限の基準です。
1日あたりの通院・入院慰謝料は4300円で計算され、支払限度額も低いため、実際の精神的損害に対して十分とはいえません。
② 任意保険基準
任意保険基準とは、任意保険会社が独自に設けている算定基準です。
自賠責保険基準は、あくまで保険会社の内部基準で公開されていないため、詳細な基準内容は不明ですが、自賠責保険とほぼ同程度かやや高めになるケースが多く、被害者への補償としては不十分です。
③ 裁判所基準(弁護士基準)
裁判所基準とは、過去の判例をベースにした、もっとも高額かつ客観的な基準です。
弁護士が交渉や裁判で用いられることが多く、被害者が本来受け取るべき金額にもっとも近づくとされています。
2、補償を受けるために必要なステップ
交通事故の被害者が適切な補償を受けるためには、必要な書類をそろえ、保険会社に正しく請求を行う必要があります。以下では、損害賠償請求の準備や流れ、賠償額の算出方法について説明します。
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(1)保険会社へ損害賠償請求をする際に必要な書類
保険会社へ損害賠償を請求する際には、以下のような書類を提出する必要があります。内容が不十分だったり不足していたりすると、適切な補償が受けられない可能性があるため注意が必要です。
- 通院交通費の領収書や明細
- 休業証明書(勤務先が発行)
- 給与明細
- 後遺障害診断書(後遺障害がある場合)
- 後遺障害診断書作成費用の領収書
- 修理見積書や車両の写真(物損の場合)
必要書類は保険会社や事故の内容によって異なるため、事前に確認しておくことが大切です。
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(2)具体的な請求の流れとタイミング
損害賠償請求は、以下のような流れで進みます。事故後すぐにすべてを進めるのではなく、治療の完了後に本格的な請求を行うのが一般的です。
① 事故発生・警察への届け出
人身事故として届出をしないと、後の請求で支障が出る場合があります。
もし物損事故として届け出てしまった場合でも、あとから届け出て切り替えられる可能性があります。詳しくは以下をご確認ください。
② 保険会社への連絡
加害者・被害者双方がそれぞれの保険会社に事故の報告をします。
③ 通院・治療の継続
医師から完治または症状固定と診断されるまで治療に専念し、医師の指示に従って治療を続けます。
④ 症状固定後に後遺障害等級の申請(該当する場合)
症状固定と診断された後も何らかの症状が残っている場合には、後遺障害等級の申請を行います。後遺障害等級が認定されれば、後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料を請求することができます。
⑤ 保険会社から示談金が提示
怪我が完治または後遺障害等級申請の結果が出たタイミングで、保険会社から示談金が提示されます。保険会社から示談案が提示されたときは、内容を精査し、必要に応じて増額交渉を行います。
⑥ 合意に至れば示談書を締結し、支払いを受ける
示談交渉の結果、合意に至ったときは示談書を締結し、賠償金の支払いを受けます。 -
(3)適切な賠償金の算出方法の基本
交通事故の賠償金の計算方法には補償の項目ごとに、一定のルールがあります。以下では、主な賠償項目ごとの基本的な算出方法を紹介します。
① 休業損害の計算方法
休業損害の計算は、「1日あたりの基礎収入×休業日数」という計算式により算出します。
「1日あたりの基礎収入」は、給与所得者の場合、事故前3か月の平均月収を90日(または3か月間の勤務日数)で割る方法で算出されます。例:月収30万円の会社員が、交通事故の治療のために20日間休業した場合
- 基礎収入:(30万円+30万円+30万円)÷90=1万円
- 休業損害:1万円×20日=20万円
② 入通院慰謝料の計算方法
入通院慰謝料は、入通院期間や入通院日数に応じて計算するのが一般的です。
以下では、慰謝料の算定基準のうち自賠責保険基準と裁判所基準による入通院慰謝料の計算方法を紹介します。
【自賠責保険基準】
自賠責保険基準による入通院慰謝料は、「4300円×対象日数」という計算式により算出します。
対象日数は、治療期間と実治療日数の2倍を比較し、いずれか少ない方が採用されます。
たとえば、以下のケースで考えてみましょう。自賠責保険基準の慰謝料
- 交通事故の怪我(むちうち)
- 治療のために6か月間通院(実治療日数60日)した場合
4300円×120日=51万6000円
【裁判所基準】
裁判所基準による入通院慰謝料は、財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」という書籍に掲載された表に基づいて計算します。裁判所基準の慰謝料
- 交通事故の怪我(むちうち)
- 治療のために6か月間通院(実治療日数60日)した場合
③ 後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、後遺障害申請の手続きにおいて認定された後遺障害等級に応じて金額が決められます。
後遺障害等級ごとの慰謝料額の相場は、以下のとおりです。等級 後遺障害慰謝料の金額 自賠責保険基準 裁判所(弁護士)基準 別表第1 1級 1650万円
(被扶養者あり:1850万円)2800万円 2級 1203万円
(被扶養者あり:場合1373万円)2370万円 別表第2 1級 1150万円
(被扶養者あり:場合1350万円)2800万円 2級 998万円
(被扶養者あり:1168万円)2370万円 3級 861万円
(被扶養者あり:1005万円)1990万円 4級 737万円 1670万円 5級 618万円 1400万円 6級 512万円 1180万円 7級 419万円 1000万円 8級 331万円 830万円 9級 249万円 690万円 10級 190万円 550万円 11級 136万円 420万円 12級 94万円 290万円 13級 57万円 180万円 14級 32万円 110万円
出典:「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(国土交通省)
④ 後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益は、「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」という計算式により算出します。
たとえば、年収600万円の会社員(30歳)が交通事故により、上肢の関節の可動域が制限されたことで10級の後遺障害等級が認定された場合の後遺障害逸失利益は、以下のように計算します。600万円×27%×22.1672(労働能力喪失期間37年に対応するライプニッツ係数)
=3591万864円
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3、保険会社との交渉術と注意点
交通事故における損害賠償請求では、保険会社との示談交渉が非常に重要です。しかし、保険会社が提示する賠償額が必ずしも被害者にとって適正であるとは限りません。
以下では、保険会社との交渉で注意すべきポイントや自分で交渉する際のコツについて説明します。
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(1)保険会社の提示額が必ずしも実態に即しているとは限らない
保険会社は、利益の追求を目的とする企業である以上、できるだけ支払う金額を抑えたいという考えがあります。そのため、保険会社からの初回の提示額が最低限の基準(自賠責基準や任意保険内の社内基準)にとどまるケースも多く、被害者が受けた実際の被害に見合わないこともあります。
特に、以下の項目は注意が必要です。- 慰謝料の金額が裁判基準に比べて低い
- 休業損害や逸失利益が過小評価されている
- 後遺障害等級が適切に認定されていない
そのため、保険会社の提案について、自分でも金額の妥当性を確認する姿勢が重要です。
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(2)自分で保険会社と賠償金交渉(示談交渉)する際の交渉術
被害者自身が保険会社と交渉する場合、以下のポイントを押さえておくと交渉を有利に進められる可能性があります。
・客観的な資料をそろえておくこと
診断書、治療明細、通院履歴、給与明細など自分の主張の根拠となる資料を提示することで説得力が増します。
・休業損害や逸失利益の算出根拠を明示すること
単に、「金額が少ない」と主張しても受け入れてもらえませんので、具体的な金額の算出根拠を明示するようにしましょう。
・感情的にならず冷静に対応すること
感情的な主張は交渉をこじらせる原因になりますので、保険会社の対応に不満があったとしても冷静に対応することが大切です。
・交渉内容は必ず書面に残すこと
電話口での合意は後にトラブルになる可能性があるため、書面またはメールで残しておきましょう。 -
(3)交渉時に被害者が気をつけるべきこと
被害者自身で示談交渉をする場合、いくつかのリスクが伴います。特に、以下のような点には注意が必要です。
- 交渉経験がないため、不利な条件で示談してしまう可能性がある
- 示談が成立すると原則として再請求ができない
- 後遺障害等級の認定が不十分なまま示談に進んでしまうケースがある
- 本来受け取れるべき金額を大きく下回る内容で妥協してしまうおそれがある
特に、被害者自身による交渉では、裁判所基準に基づく慰謝料額まで増額することは困難ですので、適正な賠償金を獲得するには、弁護士によるサポートを受けることをおすすめします。
4、事故被害者が弁護士を活用するメリット
交通事故の被害に遭った場合、早期に弁護士に依頼することでさまざまなメリットが得られます。以下では、交通事故の被害者が弁護士を活用することで得られる主なメリットを説明します。
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(1)弁護士に対応を委任すると治療に専念できる
事故直後は、身体的・精神的ダメージが大きく、慣れない書類対応や交渉に時間や気力を取られることは大きな負担になります。弁護士に委任すれば、以下のような業務を任せることができます。
- 保険会社との連絡、交渉
- 損害賠償額の算定
- 必要書類の整備、提出
- 示談交渉、訴訟の対応
被害者は治療と回復に専念できるため、精神的にも大きな安心感が得られるでしょう。
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(2)裁判所基準(弁護士基準)で請求できる
弁護士に保険会社との示談交渉を依頼すると、裁判所基準に基づく慰謝料を請求することができます。
一般的に、保険会社が提示する金額は裁判所基準よりも低く抑えられていることが多く、被害者本人が自力で交渉して裁判所基準どおりの金額を認めさせるのは容易ではありません。そのため、弁護士が介入することで、より適切な金額に近づけられる可能性が高まります。
慰謝料を少しでも増額し、納得できる条件で解決したいと考える場合には、早めに弁護士へ相談するのが安心です。 -
(3)適切な後遺障害等級を獲得できる可能性が高くなる
後遺障害が残った場合、その等級によって慰謝料や逸失利益の金額が大きく変わります。
弁護士は、後遺障害申請において、適切な診断書の取得や医師への説明指導、異議申立てのサポートなどを行い、適正な等級認定をサポートします。
特に、被害者自身が申請した場合は「非該当」になる事例でも、弁護士の関与により等級が認定されるケースもあります。
後遺障害等級が認定されるか否かで、損害賠償額が数百万円~数千万円単位で変わることもありますので、適切な後遺障害等級を獲得できるかどうかは重要なポイントとなります。 -
(4)休業損害や過失割合で争いが生じても適切な内容で合意可能
事故の状況によっては、加害者側との間で「被害者にも過失があるのではないか」といった過失割合の争いが起きることがあります。また、休業損害の金額をめぐっても、保険会社と対立することがあります。
弁護士は、こうした争点に対して法的な根拠に基づいて交渉を行い、不当に低い割合を押しつけられるのを防ぐためのサポートを行います。特に、過失割合の調整は、保険会社が被害者に不利な内容を一方的に提示してくるケースもあり、法的な知識と交渉力が重要になります。
5、まとめ
交通事故の被害者が受けられる補償は、治療費や慰謝料だけにとどまらず、休業損害や逸失利益、さらには後遺障害慰謝料・死亡慰謝料など多岐にわたります。補償の範囲を正しく理解し、適切な手続きを踏んで請求することが、正当な賠償金を受け取る第一歩となります。
ただし、補償の範囲や請求方法は複雑なため、被害者ご自身だけで対応するのは容易ではありません。交通事故案件の実績がある弁護士のサポートを受けることで、安心して手続きを進め、より適切な補償を受けられる可能性が高まります。
まずはベリーベスト法律事務所 銀座オフィスへお気軽にご相談ください。
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