デジタルフォレンジックとは? 警察に押収されたときの対処法

2025年07月28日
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デジタルフォレンジックとは? 警察に押収されたときの対処法

近年、パソコンやスマートフォンが犯罪に利用されるケースが増加しています。このようなケースでは端末に残るデータが重要な証拠となります。

犯人側としては証拠を残さないようにデータの削除などをしているかもしれませんが、捜査機関ではデジタルフォレンジックという手法で削除されたデータや隠されたファイルなどを復元し、犯罪事実の立証の証拠として利用しています。

今回は、デジタルフォレンジックの概要や復元の精度、押収時の対応などをベリーベスト法律事務所 銀座オフィスの弁護士が解説します。


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1、デジタルフォレンジックとは? 警察が使う目的

デジタルフォレンジックとはいったいどのような手法なのでしょうか。以下では、その基本的な定義と、警察がどのような目的でデジタルフォレンジックを活用しているのかを説明します。

  1. (1)デジタルフォレンジックの定義

    デジタルフォレンジックとは、デジタル機器に保存されたデータを法的な証拠として利用するために収集・分析・保全する技術をいいます。

    デジタルフォレンジックを活用することで、デジタル機器から証拠となるデータを適切な手法で抽出し、法的手続きにおいて有効な証拠として扱うことができるようになります。

    デジタルフォレンジックの対象は、非常に広く、多様なデバイスが対象になります。デジタルフォレンジックの主な対象範囲としては、以下のとおりです。

    • パソコンのハードディスク(内蔵HDD、SSD、削除されたファイルの復元、ファイルアクセスログや操作履歴の解析など)
    • スマートフォンやタブレット(通話履歴、SMS、LINEなどのチャットログ、GPSデータ、写真・動画データ、アプリの使用履歴など)
    • クラウドサービス(クラウドに保存されたファイルのアクセス履歴、アカウントのログイン記録、IPアドレスなど)
    • 外部記録媒体(USBメモリ、SDカード、外付けHDDなど)
  2. (2)警察がデジタルフォレンジックを使用する目的

    警察がデジタルフォレンジックを犯罪捜査に使用する目的は、パソコンやスマートフォンに残されたデータを犯罪立証の証拠として利用することにあります。

    近年、犯罪のツールとしてパソコンやスマートフォンなどのデジタル機器が利用されるケースが増えてきており、犯人が使用したデジタル機器には犯罪の重要な証拠が残されていること少なくありません。

    事件の全体像の把握や犯人・関係者を特定するためにデジタル機器に残されたデータが重要な役割を果たすため、警察は、デジタルフォレンジックという手法を活用します。

    デジタルフォレンジックは、さまざまな事件で用いられますが、主な対象事件としては、以下のような事件が挙げられます。

    • 特殊詐欺
    • 児童ポルノ
    • ストーカー
    • ネットいじめ
    • ネット上の誹謗中傷による業務妨害
    • サイバー攻撃

2、削除されたデータやメールは本当に復元されるのか?

デジタル機器から削除済みのデータは、デジタルフォレンジックによりどの程度復元されるのでしょうか。

  1. (1)パソコンやスマートフォンで削除したデータはどの程度復元可能?

    パソコンやスマートフォンでデータを削除しても、実はそれだけではデジタルデータが完全には消去されておらず、一定の操作をすることで削除したデータを復元することが可能です。

    たとえば、パソコンでファイルを「ごみ箱」に入れて、「ごみ箱を空にする」を実行すればデータを削除できたと考える方が多いですが、実際には削除したデータがパソコン上で見えなくなっただけであり、データ自体はパソコン上に残されています。

    ただし、削除したデータは未使用領域として別のデータを書き込むことが可能な状態ですので、新たなデータが上書きされてしまうと復元の可能性は低くなっていきます。

    そのため、パソコンやスマートフォンデータについては、削除後上書きされていなければほぼ復元が可能だと考えてもよいでしょう。

  2. (2)データの復元を避けるために端末を破壊・水没させることの問題点

    デジタル機器を物理的に破壊または水没させることでデータの復元を困難にすることができるため、デジタル機器に自分に不利な証拠が残されている場合には、警察に押収される前に破壊・水没させようと考える方も少なくありません。

    このようなデジタル端末の破壊は、刑法の「証拠隠滅罪」に該当するかが問題になりますが、証拠隠滅罪は他人の刑事事件に関して証拠を隠滅する行為ですので、自分の犯罪の証拠を隠すためにデジタル端末を破壊しても証拠隠滅罪に問われることはありません。

    ただし、証拠を隠滅したことが捜査機関に発覚すると、逮捕されるリスクが高くなってしまいます。また、裁判でも不利な情状として扱われる可能性がありますので、慎重な判断が求められます。

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3、復元されたデータは裁判でどの程度使われるのか?

デジタルフォレンジックにより復元されたデータは、裁判でどのように使われるのでしょうか。

  1. (1)復元されたデータの証拠能力と証明力

    刑事裁判では、復元されたデータそのものを証拠として提出するのではなく、デジタルフォレンジック報告書という形で提出されます。そのため、裁判では主にデジタルフォレンジック報告書の証拠能力と証明力が問題になります。

    ① 復元されたデータの証拠能力
    証拠能力とは、ある証拠が裁判で法的に証拠として使用できる資格があるかどうかを指す言葉です。
    デジタルフォレンジックにより復元されたデータは、伝聞証拠であるため原則として証拠能力が認められず、書面の作成者が「真正に作成されたもの」であることを証言する必要があります。
    そのため、被告人側が不同意の証拠意見を述べた場合、検察側が裁判の証拠として用いるには、デジタルフォレンジック報告書の作成者が鑑定した内容が正しく記載されていることを証言しなければなりません

    ② 復元されたデータの証明力
    証明力とは、証拠が事実を証明するのにどのくらい役に立つのかという証拠としての価値を指す言葉です。
    デジタルフォレンジックにより復元されたデータの証明力は、以下のポイントを適切に評価することが重要になります。

    • 保全データの同一性(保全データは原本データと同一であるか)
    • 解析過程の信用性(抽出データが保全データに由来し、抽出データの解釈が正確であること)
    • 間接事実の推認力(抽出データから解釈される間接事実にどの程度の推認力があるか)


    デジタルデータだからといって常に高い証明力が認められているわけではなく、保全→抽出→推認の過程に誤りが混入するおそれがあるため、慎重に検討していかなければなりません。

  2. (2)デジタルフォレンジックによる復元結果の使われ方

    デジタルフォレンジックにより復元されたデータは、その内容に応じて刑事裁判でさまざまな使われ方をします。デジタルフォレンジックによる復元結果の主な使われ方には、「直接証拠」と「状況証拠」の2つがあります。

    ① 直接証拠
    直接証拠とは、その証拠だけで犯行事実が直接的に立証されるものをいいます。
    直接証拠にあたるものとしては、以下のようなものがあります。

    • 犯行状況を記録した防犯カメラの映像
    • スマートフォンで撮影された犯行時の動画
    • 児童ポルノ画像や動画


    ② 状況証拠
    状況証拠とは、犯罪事実を直接証明できないが間接的に犯罪事実を推認させる証拠をいいます。
    状況証拠にあたるものとしては、以下のようなものがあります。

    • 被害者と連絡をとっていたLINEの履歴
    • パソコンの検索履歴
    • 特殊詐欺で用いられているマニュアルのデータ

4、デジタルフォレンジックで不利な証拠が見つかった場合の対応方法

デジタルフォレンジックで不利な証拠が見つかった場合、どうすればよいのでしょうか。以下では、弁護士に依頼した場合にできる対応方法について説明します。

  1. (1)証拠能力への不同意

    デジタルフォレンジックにより復元されたデータは、報告書という形で裁判所に提出されます。報告書は、伝聞証拠に該当するため被告人側の同意がなければ、証拠能力が認められず、デジタル鑑定をした作成者の証言が必要になります。

    デジタルフォレンジックで不利な証拠が見つかったときは、直ちに証拠に同意するのではなく、証拠能力を争っていくことで不利な証拠を排斥できる可能性があります。弁護士は被告人に代わって証拠の信頼性や信ぴょう性を冷静に見極め、ケースに応じてその証拠能力に不同意の意見を述べます

  2. (2)供述や証拠との整合性チェック

    デジタルフォレンジックの報告書に証拠能力が認められてしまったとしても、証明力を争っていくことで不利な事実認定を回避できる可能性があります。

    弁護士は、デジタルフォレンジックの報告書が他の供述や証拠と矛盾しているかどうかの整合性のチェックを行い、矛盾点があるときはそれを裁判で主張立証していくことができます

5、まとめ

デジタルフォレンジック技術は高精度で復元可能な技術であり、警察による証拠収集に広く使われている手法です。デジタル機器から削除したデータも裁判の証拠になることがあるため、安易に端末を処分することはかえって不利になる可能性もありますので注意が必要です。

犯罪の証拠となるデジタルデータの扱いにお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 銀座オフィスまでご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています