労働審判とあっせんの違いとは? あっせんへの対処法を弁護士が解説
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裁判所が公表している司法統計によると、令和5年に東京地方裁判所に申し立てのあった労働審判は、1012件でした。
労働者との間でトラブルが生じると、労働者から企業側に「あっせん」を申し立てられることがあります。また、あっせんのほかにも労使トラブルを解決する手段として利用されるものに「労働審判」があります。
本コラムでは、労働審判とあっせんの違いや、労働者からあっせんを申し立てられた場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所 銀座オフィスの弁護士が解説します。
1、あっせんとは|労働審判との違い
まず、「あっせん」という手続きの概要や、あっせんと労働審判の違いを解説します。
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(1)あっせんとは
「あっせん」とは、労働者と使用者(会社、経営者など)との間でトラブルが生じたときに、あっせん委員が当事者の間に入って話し合いの促進をすることで紛争解決の援助をする制度です。
労使間のトラブルは、まずは労働者と使用者との自主的な話し合いにより解決を図るのが基本となりますが、当事者だけではどうしても解決できない問題もあります。
そのような問題については、学識経験者である第三者のあっせん委員が間に入ることによって、迅速かつ円満な紛争解決が期待できるのです。
なお、あっせんは、当事者の参加が強制されませんので、労働者側からあっせんの申し立てがあったとしても参加を拒否することは可能です。
また、あっせん委員からは「あっせん案」という解決案が提示されることがありますが、それに応じるかどうかも任意であるため、納得できなければ拒否することができるのです。
このように、あっせんは、基本的には話し合いの手続きとなります。
したがって、あっせんによりトラブルを解決するためには、お互いの合意が必要になるのです。 -
(2)あっせんと労働審判との違い
労働審判とは、裁判官の中から指定される労働審判官(1人)と労働審判員(2人)で組織する労働審判委員会が労使間のトラブルの調整を行い、事案に即した柔軟な解決を図る制度です。
あっせんと労働審判とでは、主に以下のような違いがあります。① 実施する機関
あっせんは、都道府県労働委員会や労働局等の行政機関が実施します。
一方で、労働審判は裁判所という司法機関によって実施されます。
② 解決までに要する期間
あっせんは、原則として1回の期日で終了するものとされているのに対して、労働審判は原則として3回までの期日で終了するとされています。
そのため、解決までに要する期間は労働審判のほうが長くなっています。
③ 期日への対応
あっせんへの参加は強制されていませんので、あっせんの申し立てがあったとしても参加を拒否することができます。当事者の一方が不参加だった場合には、あっせん手続きは終了し、それにより不利益が生じることはありません。
一方で、裁判所が実施する労働審判には参加が義務付けられており、欠席した場合には5万円以下の過料に処される可能性があります。また、使用者側が欠席したとしても手続き自体が終了するわけではないので、労働者側の言い分に基づいた、不利な労働審判が下されるリスクがあります。
2、あっせんが対象とする労使トラブル
あっせんが対象とする労使問題は、個々の労働者と事業者との間のトラブルです。
また、ここでいう「労働者」には、正社員だけでなくパートやアルバイト、契約社員や派遣社員なども含まれます。
労働条件その他労働関係に関する事項に関する紛争が広く対象になりますが、具体的には以下のようなものが挙げられます。
- 労働条件の不利益変更、解雇、雇い止めなどの労働条件に関する紛争
- いじめや嫌がらせなどの職場環境に関する紛争
- 退職に伴う研修費用の返還、社用車などの破損などの損害賠償に関する紛争
- 会社分割による労働契約の承継や競業禁止など労働契約に関する紛争
- これに対して、以下のような紛争については、あっせんの対象外です
- 労働組合と事業主の間の紛争
- 労働者と労働者の間の紛争
- 裁判で係争中または確定判決が出ている紛争
- 募集、採用に関する紛争
3、あっせんを申し立てられた場合に会社がとるべき対応
以下では、労働者からあっせんを申し立てられた場合に、会社としてはとるべき対応を解説します。
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(1)あっせんへの参加・不参加を判断
労働者の側からあっせんの申し立てがあると、実施機関から使用者に対して、あっせんの開始通知連絡がきます。あっせんの開始通知では、あっせん参加・不参加の意思確認がなされます。
あっせんには参加義務はないので、参加するかどうかは自由に決めることができます。
あっせんへの参加また不参加を決めたら、その旨あっせんの実施機関に連絡をします。
なお、あっせんへの参加を拒否したとしても、労働者から労働審判の申し立てや訴訟提起などがなされる可能性があります。
そのため、労働者側の要求をふまえて、話し合いで解決するのがベストだと考えられる場合にはあっせんへの参加を選択したほうがよいでしょう。 -
(2)あっせん代理人への委任を検討
あっせんの手続きは、弁護士が代理人として参加することもできます。
弁護士に依頼することには不利な条件での合意を回避できるなどのメリットもありますので、あっせんの開始通知が届いたら一度弁護士に相談してみてください。 -
(3)あっせんの実施
労働者および使用者側は、指定された日時にあっせんの実施機関に赴き、あっせんの手続きを行います。
あっせんの手続きでは、専門的な知見を有するあっせん委員が当事者双方から個別に事情を聞き、紛争の要点を把握します。
そして、当事者の主張や意見をふまえて、説得や紛争解決に向けた解決案の提示などを行って、紛争解決を促します。
あっせんは、あくまでも話し合いの手続きになります。
したがって、あっせんでの解決を目指すためには、当事者双方が自分の主張に固執するのではなく、お互いに譲歩する姿勢が重要になります。 -
(4)あっせんの終結
あっせんは、以下の場合に終結します。
① 解決
当事者双方があっせん案を受諾した場合、紛争事項について合意書を締結した場合など、あっせん申し立ての理由となった紛争が解決した場合には、あっせんは「解決」により終了となります。
② 打ち切り
会社側があっせんに応じない場合や当事者双方が紛争解決に向けた歩み寄りがなく、あっせん委員が紛争解決の見込みがないと判断した場合には、あっせんは「打ち切り」により終了します。
③ 取り下げ
あっせんの申し立てをした労働者の側からあっせん申請取り下げ書が提出された場合には、あっせんは「取り下げ」により終了します。
4、あっせんや労働審判のことは弁護士にご相談を
労働者からあっせんや労働審判の申し立てをされてお困りの方は、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)弁護士に相談することで適切な対応をとれる
労働者からあっせんの申し立てがされると、どのように対応したらよいかわからず、そのまま放置してしまう経営者の方もいるでしょう。
あっせんには出席する義務はありませんので、あっせんを無視したとしても法的な不利益が生じることはありません。
しかし、申し立てを無視された労働者の側は、会社に対して不満を抱くことになりますので、本来であれば話し合いで解決できたような事案でも訴訟にまでこじれてしまうおそれがあります。
あっせんの開始通知が届いた場合には、無視や放置をせずに適切に対応するため、まずは弁護士に相談してください。
弁護士であれば、労働者からの申立て内容や経緯などをふまえて、あっせんに対する適切な対応をアドバイスすることができます。 -
(2)弁護士が代理人として対応することも可能
あっせん手続きは、弁護士に依頼することで弁護士が代理人として対応することも可能です。
労働者からの申立て内容によっては法的判断が必要な事項も含まれているため、あっせん委員からのあっせん案に応じるかどうかを判断する場面では、弁護士のアドバイスが不可欠になります。
あっせんにおいては専門的知見を有するあっせん委員が間に入るため、そもそも一方的に不利になるような内容が提示されることは少ないですが、弁護士が介入することで、そのリスクをさらに軽減することができます。 -
(3)労働審判や訴訟に発展した場合もサポートできる
あっせんが打ち切りにより終了した場合には、労働者から労働審判の申し立てや訴訟提起がなされる可能性があります。
労働審判や訴訟などに発展した場合は、専門家のサポートがなければ適切に手続きを進めていくことは難しいため、弁護士に依頼することをおすすめします。
あっせんの対応を弁護士に依頼した場合には、労働審判や訴訟の対応も引き続き任せることができるため、早めに相談するとよいでしょう。
5、まとめ
「あっせん」は、労働審判とは違い手続きに参加するかどうかは会社側が自由に決めることができます。
あっせんには労働審判手続きや訴訟手続きに比べて迅速な解決が可能というメリットもあるため、あっせんに参加するかどうかは、専門家である弁護士のアドバイスをふまえて判断することをおすすめします。
従業員にあっせんを申し立てられた場合には、会社や経営者の側として適切な対応が求められます。
労働者との間でトラブルにお困りの方は、まずはベリーベスト法律事務所 銀座オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています