団体交渉は正当な理由があれば拒否できる? 理由例や注意点を紹介

2024年12月16日
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団体交渉は正当な理由があれば拒否できる? 理由例や注意点を紹介

労働組合側から団体交渉の申し入れを受けた場合、使用者側は誠実に応じなければなりません。正当な理由なく団体交渉を拒否すると、不当労働行為の責任を問われるおそれがあります。

本記事では、使用者による団体交渉拒否の問題点や、団体交渉を拒否できる正当な理由について、ベリーベスト法律事務所 銀座オフィスの弁護士が解説します。

出典:「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」(東京労働局)

1、団体交渉とは

団体交渉とは、使用者と労働組合が労働条件や組合活動のルール、交渉手続きのルール等について話し合うことをいいます。
賃金や休憩、休日、休暇制度、福利厚生、労働時間など、さまざまな労働条件が団体交渉において話し合われます。

団体交渉の目的は、労働者側が使用者側と対等な条件で交渉できるようにすることです。
労働者個人の立場は使用者に比べて弱くなりがちですが、事業場の労働者が団結することにより、使用者との対等な交渉が可能となります。

団体交渉権は、日本国憲法第28条により団体行動権の一環として認められています。
後述するように、使用者が正当な理由なく団体交渉を拒否すると不当労働行為にあたり、労働委員会から救済命令を受けるおそれがあります。

2、団体交渉の流れ

使用者が労働組合と団体交渉をする際の大まかな流れを解説します。

  1. (1)日時・場所・出席者などの決定

    まずは、団体交渉の日時・場所・出席者などを決定します。

    これらの事項の決定にあたっては、労使が対等に交渉できるような環境の整備に留意すべきです。
    特に使用者側としては、労働者側の乱入のおそれがある場所(会社のオフィス内や組合事務所など)を避け、出席者を労使同数とするなど、「多勢に無勢」の状況を回避するように努めましょう。

  2. (2)労使双方が出席しての団体交渉

    事前の取り決めに従った日時・場所・出席者により、労使間で団体交渉を行います。
    使用者側としては、会社としての主張ばかりに拘泥するのではなく、労働者側の主張にも耳を傾けた上で、状況次第では妥協・和解も検討しましょう。

  3. (3)和解成立の場合|合意書の締結・労働条件の変更

    労使間で和解が成立した場合は、その内容をまとめた合意書を作成・締結します。
    そして合意書に従い、賃金などの労働条件が変更されます。

  4. (4)和解不成立の場合|労働審判・訴訟など

    団体交渉が決裂した場合は、法的手続きによって労働条件の変更等が争われることもあります。

    労働条件の変更等について争う際の主な法的手続きは、労働審判または訴訟です

    1. 労働審判
      労使紛争を迅速に解決することを目的とした法的手続きです。原則として3回以内の期日で審理が行われ、調停または労働審判(判断)によって解決が図られます。

    2. 訴訟
      裁判所の公開法廷で行われる紛争解決手続きです。原則として判決による強制的な解決が図られますが、和解等によって訴訟が終了する場合もあります。

3、使用者は正当な理由がなければ団体交渉を拒否できない

労働者の団体行動権を実効的に保障する観点から、使用者は、正当な理由がなければ団体交渉を拒否できません

正当な理由なく団体交渉を拒否することは「不当労働行為」にあたり(労働組合法第7条第2号)、労働委員会の救済命令を受けることがあります(同法第27条の12第1項)。
確定した救済命令に違反した使用者は、以下の罰則を受けるおそれがあるので要注意です。

取消訴訟を経ずに救済命令が確定した場合 50万円以下の過料(同法第32条)
取消訴訟を経て救済命令が確定した場合 1年以下の禁錮または100万円以下の罰金(同法28条)
※禁錮と罰金が併科されることもあります。


正当な理由のない団体交渉の拒否のほか、以下の行為も不当労働行為にあたります

  • 組合活動などを理由とする不利益な取り扱い
  • いわゆる「黄犬契約」
  • 労働組合に対する支配、介入、経理上の援助
  • 労働委員会への申し立て等を理由とする不利益な取り扱い


なお、使用者は労働組合との団体交渉へ誠実に応じる義務がありますが、労働者側の要求を受け入れる義務まではありません。あくまでも交渉のテーブルに着く義務があるにとどまり、実際に労働条件を変更するかどうかは交渉次第となります。

4、団体交渉を拒否できる正当な理由の例

使用者は、正当な理由があれば労働組合との団体交渉を拒否できます。団体交渉を拒否できる正当な理由としては、以下の例が挙げられます。

  1. (1)団体交渉が平行線を辿っており、法的手続きに移行すべき場合

    団体交渉の場で十分に話し合いを尽くした結果、労使の主張がまとまる様子がない場合は、団体交渉を拒否できる正当な理由があると考えられます。
    これ以上団体交渉を続けても、お互いの主張が平行線を辿るだけとなってしまうため、法的手続きを通じて結論を出すべきだからです。

  2. (2)法的手続きによって決着済みの問題が蒸し返された場合

    労働審判や訴訟などによって結論が決まった問題につき、改めて団体交渉を申し入れられた場合は、拒否する正当な理由があると考えられます。
    蒸し返された解決済みの問題について、使用者が団体交渉に応じる義務を負うとすれば、堂々巡りになって一向に解決が得られないからです。

  3. (3)労働組合側が暴力行為などをした場合

    労働組合側が使用者側に対して暴力を振るったなど、平和的な団体交渉が困難と思われる場合は、団体交渉を拒否する正当な理由があると考えられます。

    労働組合法第1条第2項では、いかなる場合においても、暴力の行使は労働組合の正当な行為と解釈されてはならない旨が明記されています。
    労働組合側の暴力行為が認められた状況では、団体交渉の前提を欠いているため、使用者側による交渉拒否が認められます。また、暴力行為が発生する恐れが高いと認められる状況でも、使用者側による交渉拒否が認められる可能性があります。

  4. (4)使用者側弁護士の同席を労働組合側が拒否した場合

    労働組合側が、団体交渉の場に使用者から委任を受けた弁護士が同席することを拒否した場合には、使用者側は団体交渉を拒否できると考えられます。
    労使の対等な交渉が団体交渉の本旨であることを踏まえれば、弁護士を同席させることは労働者・使用者双方に認められるべきであって、それを拒否することは不当だからです。もっとも、単なる使用者側の顧問弁護士のように、団体交渉に関して委任を受けたか否かがはっきりしない弁護士については、部外者であるとして労働者側が当該弁護士の同席を拒否する余地があるので、使用者側は、同席する弁護士は団体交渉に関して委任している弁護士であることをしっかりと明示しましょう

5、使用者が団体交渉を拒否する場合の注意点

使用者が労働組合との団体交渉を拒否する際には、以下の点に注意しましょう。

  1. (1)労働組合側の要求を拒否する場合は、理由や代替案を明示する

    使用者側は団体交渉を拒否する前に、労働組合との間で誠実に交渉を行う必要があります。
    特に労働者側の要求を拒否する場合は、その理由や代替案を明示しましょう。

    また、使用者側が明示した拒否の理由や代替案は、団体交渉の議事録に残しておくことが大切です。使用者側が誠実に交渉を尽くしたことの証拠として役立ちます。

  2. (2)子会社の従業員に関する団体交渉を拒否する場合の注意点

    グループ企業においては、親会社が子会社の従業員に関する団体交渉を求められるケースがあります。

    団体交渉に応じる義務があるのは、原則として対象労働者(組合員)の使用者のみです。
    したがって、親会社が子会社の従業員に関する団体交渉を求められても、原則として応じる立場にないため拒否しても問題ありません。

    ただし例外的に、以下の条件を満たす場合には、親会社が子会社の従業員の「使用者」であると評価され、団体交渉に応じる義務を負うと解されています(最高裁平成7年2月28日判決)。

    • 雇用主から労働者の派遣を受けて、自己の業務に従事させていること
    • 労働者の基本的な労働条件等について、部分的であっても雇用主と同視できる程度に、現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあること


    上記の事案では、従業員が他会社から出向者であった事案でしたが、つまり、親会社の業務に従事させている子会社の従業員につき、親会社が決められる範囲の労働条件等について団体交渉を求められた場合は、直接の雇用主でなくても応じなければならないということです。

    単に「子会社の問題だから、親会社には関係ない」というだけの理由で団体交渉を拒否すると、不当労働行為の責任を問われるおそれがあるので十分ご注意ください

6、まとめ

使用者は原則として、労働組合との団体交渉へ誠実に応じる義務を負いますが、正当な理由があれば団体交渉を拒否できます。
また、団体交渉に応じる場合でも、労働組合側の要求に応じる義務はありません。適切に妥協点を探りつつ、不合理な要求を受けた場合は毅然と拒否しましょう。

団体交渉の問題を含めて、従業員との労働トラブルへの予防・対応については、顧問弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。
顧問弁護士を契約すれば、会社の状況にあわせた効果的な労働トラブルの予防策について、日常的にアドバイスを受けられます。
また、実際に労働トラブルが発生した際にも、スムーズに顧問弁護士へ対応を依頼できます。

ベリーベスト法律事務所は、労働問題への対策強化を図る企業のために、ニーズに応じて利用できる顧問弁護士サービスを提供しています
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