組合専従者とは何か。組合専従における注意点を弁護士が解説
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東京都内の労働組合数は令和6年時点で6421組合あり、労働組合員数は244万4093人で、前年より1万5176人増加しています。全国的に労働組合の組織率は低下しているものの、都内では依然として多数の組合員数が維持されています。
このような中、労働組合から「組合専従者を置きたい」と提案されたものの、「組合専従者とは何か」「会社としてどのように対応すべきか」についてよくわからず困惑している人事担当者の方も多いのではないでしょうか。組合専従者は、労働組合の活動を支える重要な役割を担う存在ですが、会社としてはその設置に伴う法的リスクや注意点をしっかりと把握しておく必要があります。
本記事では「組合専従者」について、基本的な定義から、設置時や廃止時の注意点、さらに労働組合との団体交渉における対応方法まで、ベリーベスト法律事務所 銀座オフィスの弁護士が詳しく解説します。労働組合との関係を適切に構築し、会社経営におけるリスクを最小限に抑えるための参考にしてください。
出典:「令和6年 東京都における労働組合の組織状況」(東京都産業労働局)
1、組合専従者とは?
「組合専従者」とは、労働組合の活動に専念する人のことです。組合員である労働者から選出されたり、外部から採用されたりして、組合の運営や活動に中心的な役割を担います。
組合専従者は大きく分けて「在籍専従者」と「非在籍専従者」の2種類が存在します。
② 非在籍専従者:非在籍専従者は、会社を退職し、組合の専従職員として活動します。この場合、給与は組合費から支払われることになります。
本記事における「組合専従者」は、特に断りのない限り、在籍専従の組合専従者(在籍専従者)を指すこととします。
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(1)組合専従者の役割
組合専従者の役割は、労働者の権利を守るための活動に専念し、組合活動を円滑化させることです。たとえば、労働条件の改善交渉や組合員の相談対応、組合の運営管理など、組合活動に必要な業務を担います。
労働組合の活動は本来、勤務時間外において行うべきものです。しかし、労働組合の規模が大きくなってくると、組合活動の幅が広がり、活動に支障がでることがあります。
その点、組合専従者は労働の義務を免除されるため、他の労働者が勤務している間にも組合活動を行うことができます。組合専従者として時間を割けるようになれば、労働組合の業務の円滑な処理が可能になるのです。
なお、組合専従者を設置するかどうかは、会社と労働組合の合意によって決めます。常に組合専従者を置かなければならない、というわけではありません。 -
(2)組合専従者の地位|休職扱いとするのが一般的
組合専従者の地位は会社と労働組合の合意によって定めますが、休職扱いとするケースが多いです。組合専従者としての任期(専従期間)を終えたら、原則として会社に復帰します。
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(3)組合専従者の賃金の取り扱い
組合専従者は、会社における労働の義務を免除されます。したがって「ノーワーク・ノーペイの原則」により、会社は組合専従者に対して賃金を支払う義務を負いません。組合専従者の給与は組合の活動費から支払われることが一般的です。
会社側は、労働組合を運営するための経費の支払いにつき、経理上の援助を与えることが「不当労働行為」として禁止されています(労働組合法第7条第3号)。労働組合活動に対する不当介入の契機になり得るためです。
組合専従者に対して任意に賃金を支払うことも、上記の不当労働行為に該当し得ることにご注意ください。 -
(4)組合専従者が会社に復帰したときの取り扱い|職位・勤続期間など
組合専従者は、任期を終えれば会社に復帰することになります。
復帰後の職位は、会社と労働組合の合意があればそれに従いますが、基本的には従前と同等の職位に復帰させるケースが多いようです。
会社と労働組合の合意がなければ、会社が人事権に基づいて復帰後の職位を決定します。ただし、不当な配置転換や待遇の悪化は不当労働行為に該当する可能性があるので注意しましょう(労働組合法第7条第1号)。
労働者の勤続期間は、退職金の額などに影響することがあります。
組合専従者であった期間を勤続期間に算入するかどうかについても、会社と労働組合の合意があればそれに従います。
合意がなければ会社が適宜判断しますが、組合専従者の期間は実際に労働していない以上、勤続期間に算入しないという取り扱いも、比較的認められやすいと予想されます。 -
(5)組合専従者を設置する場合は、労働協約を締結すべき
組合専従者を設置する際には、その勤務条件や復帰後の取り扱いなどについて、あらかじめ労働協約でルールを定めておきましょう。これによって、会社と労働組合の間でのトラブルを防ぐことができます。
労働協約は、労働組合と会社の間で締結します。必ず書面を作成した上で、労使双方が署名または記名押印をしなければなりません(労働組合法第14条)。
2、組合専従(在籍専従)を廃止することはできるか?
会社との雇用契約を維持しながら、組合専従者として活動することを認める制度(=組合専従、在籍専従制度)をいったん導入すると、会社の都合で一方的に廃止することは困難です。
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(1)労働協約で定められている場合、一方的な廃止はできない
組合専従に関するルールが労働協約で定められている場合、その内容の変更は、労働組合と会社の間の合意によって行わなければなりません。
したがって、労働協約に組合専従の定めがある場合には、会社の一方的な都合で組合専従を廃止することはできません。 -
(2)労働協約の定めがなくても、一方的な廃止は認められにくい
組合専従に関する労働協約の定めがない場合も、会社の都合によって一方的に組合専従を廃止することは、違法になる可能性が高いと考えられます。
使用者が労働組合の運営に対して支配・介入を行うことは、不当労働行為に当たります(労働組合法第7条第1号)。
組合専従者は、労働組合における業務の多くを担う重要な人物です。組合専従の制度を一方的に廃止して、組合専従者だった人に会社のための労働を強いることは、労働組合の運営に対して大きな影響を与え得るものとして、不当労働行為と判断されるリスクが高いでしょう。
このことから、組合専従に関する労働協約の定めがないとしても、会社都合で組合専従を一方的に廃止することは避けるべきです。
組合専従者の設置や廃止に関する問題は、労働組合との団体交渉を通じて解決する必要があります。団体交渉は、労働組合との関係を適切に維持するために欠かせないプロセスです。次章では、団体交渉における注意点について詳しく解説します。
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3、労働組合から団体交渉を求められた場合の注意点
団体交渉は、労働組合法で認められた労働組合の正当な権利であり、会社としては誠実に対応する義務があります。労働組合から組合専従者の設置などで団体交渉を求められた場合、会社側はどのように対応すべきなのでしょうか。
以下では、特に注意するべきポイントについてご紹介します。
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(1)正当な理由なく団体交渉を拒否しない
使用者が、雇用する労働者の代表者との団体交渉を正当な理由なく拒否することは、不当労働行為に当たります(労働組合法第7条第2号)。
労働組合からの団体交渉の申し入れを拒否できるケースとしては、以下の例が挙げられます。- 団体交渉における話し合いが停滞しており、裁判手続きなどに移行すべきと考えられる場合
- すでに裁判手続きで決着している問題を、再度蒸し返された場合
- 会社側弁護士の同席を拒否された場合
- 労働者側の暴力行為などが強く懸念され、健全な話し合いが困難と思われる場合
仮に団体交渉を拒否するとしても、上記のような理由を合理的に説明できるようにしておきましょう。
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(2)団体交渉の参加者などを不利益に取り扱わない
労働組合の組合員であることや、労働組合の正当な行為をしたことなどを理由に、労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをすることは不当労働行為に当たります(労働組合法第7条第1号)。
組合専従者であるか否かを問わず、団体交渉の場に参加した労働組合員を不利益に取り扱ってはなりません。 -
(3)日時・場所・出席者につき、中立的な条件を確保する
会社側は労働組合側に比べて、人数で劣るケースが多いです。
会社側としては、労働組合側が数に物を言わせて圧力をかけてくるような事態を防ぐため、中立的な交渉環境を確保することが大切になります。
具体的には、日時・場所・出席者について、以下のポイントに注意しながら団体交渉をセッティングしましょう。- 日時 会社側として十分に検討できる時間を確保した上で、会社側の主要メンバーが全員参加できる日時を設定しましょう。
- 場所 不必要に長時間の拘束や、参加が予定されていない労働者の乱入などを防ぐため、レンタルスペースなど外部の会議室などを利用しましょう。会社のオフィスや労働組合事務所などは避けるべきです。
- 出席者 公平性の観点から、労使同数となるように調整しましょう。
業務時間内に設定した場合、従業員が交渉に参加した時間に賃金の支払いが発生するため、業務時間外に行うことが望ましいです。
また、労働組合の上部団体の役員を含む外部の人を交渉委員とすることは、労働組合の権利として認められています。参加は認めた上で、参加人数や交渉ルールについて事前に調整することが望ましいでしょう。
4、労組対応などの労働問題を弁護士に相談するメリット
労働組合対応については多くの注意点が存在するため、弁護士に相談しながら対応することをおすすめします。
弁護士は会社側の代理人として、実際の団体交渉の場に同席し、法令に則して毅然(きぜん)とした対応をとることができるようにサポートいたします。
また、弁護士と顧問契約を締結すれば、労働組合対応を含めた幅広い労働問題について、日常的にアドバイスを受けられます。
深刻な問題が発生する前に、弁護士のサポートを受けながら効果的な予防策を講じることができるなど、顧問契約には多くのメリットがあります。
労働組合対応や、その他の労働問題についてお悩みの企業は、弁護士との顧問契約をご検討ください。
5、まとめ
組合専従者は、労働者の権利を守るために労働組合の業務に専念する人のことです。中でも、会社の従業員としての身分を維持しながら組合専従で活動する人は、在籍専従者と呼ばれます。
組合専従者を設置すると、会社の都合で一方的に廃止することは困難です。労働組合側から組合専従者設置の要望を受けたら、丁寧に耳を傾けつつも、実際の導入については慎重に検討しましょう。
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