労働審判の終了事由である24条終了とは?
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この記事をご覧の方の中には、不当解雇、残業代の未払い、職場でのハラスメントなど、労働トラブルを耳にしたり、実際にご自身が経験されたことのある方も少なくないのではないでしょうか。統計としても、令和5年度に東京都内の総合労働相談コーナーに寄せられた相談は17万3947件にものぼります。
労働者と使用者(会社)間の労働トラブルを迅速に解決し得る手続きとして、労働審判が挙げられます。しかし、労働審判が申し立てられた場合であっても、労働審判にふさわしくないと思われる事案については、「24条終了」によって訴訟へと移行することがあります。
本記事では、労働審判の終了事由である「24条終了」について、ベリーベスト法律事務所 銀座オフィスの弁護士が解説します。
1、「24条終了」とは、労働審判の終了事由のひとつ
「24条終了」とは、労働審判を終了させる方法のひとつです。労働審判法第24条に基づき、労働審判手続きが終了するため「24条終了」と呼ばれます。
労働審判の手続きと24条終了、終了後の訴訟について解説します。
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(1)労働審判とは?
「労働審判」とは、労働トラブルを解決するために、裁判所で行われる手続きです。裁判官1名と労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、労使(労働者と使用者)の主張を公平に聞き取ったうえで紛争解決を図ります。地方裁判所において、非公開で行われます。
労働審判の特徴は、審理が原則として3回以内に終了する点です。労働トラブルを解決するためには、通常の訴訟にて争うという選択肢もあるところですが、通常の訴訟だと、何回も審理が行われ、審理期間も1年以上かかるケースは少なくありません。
それに対して、労働審判の場合、訴訟より短期間で解決を得られる可能性が見込めます。
労働審判で解決が見込まれる労働トラブルの典型例としては、解雇トラブルが挙げられます。 -
(2)労働審判における24条終了とは?
「24条終了」とは、労働審判委員会の判断により、労働審判手続きを終了させることをいいます。
24条終了がなされるのは、事案の性質上、労働審判手続を行うことが紛争の解決のために適当でないと労働審判委員会が判断したときです(労働審判法第24条)。
令和5年度の司法統計によれば、同年度において24条終了となった労働審判事件は177件で、全体(3248件)の約5.4%でした。
具体的にどのようなケースにおいて24条終了がなされるのかについては、2章で後述します。 -
(3)24条終了後の訴訟の流れ
労働審判手続きが24条終了となった場合には、自動的に訴訟へ移行します。
労働審判から移行した訴訟は、労働審判の申立書が訴状とみなされ(労働審判法第22条第3項)原告(労働者)が改めて訴状を提出する必要はありません。
以下が訴訟手続きの一般的な流れです。- 非公開の場で争点と証拠の整理(弁論準備手続など)を行う
※被告(会社)は答弁書や準備書面、原告は追加の準備書面などを裁判所に提出 - 完了したら公開の法廷で尋問を含む審理を行う
審理が熟した段階で、裁判所が判決を言い渡します。判決に対して不服がある場合は、控訴される場合もあります。
また、訴訟手続きの中で和解が成立するケースもあります。和解が成立した場合は、和解調書が作成されて訴訟が終了します。 - 非公開の場で争点と証拠の整理(弁論準備手続など)を行う
2、24条終了になりやすい労使トラブルの特徴
たとえば以下のようなケースでは、24条終了がなされる可能性が高いです。
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(1)大量の証拠調べや証人尋問が必要
労働トラブルの中には、大量の証拠調べや多数の証人に対する尋問が必要なケースもあります。
たとえば、残業代請求事件において、労使間で争いがなく労働時間を容易に証明できるもの(タイムカード等)が存在せず、メール、業務に用いていたパソコンのログ、同僚の証言等、様々な証拠を組み合わせて、労働者が過去3年間のうち大半の勤務日において残業をしていた事実を証明しようとするようなケースです。
このようなケースにおいては、じっくりと時間をかけて証拠調べや尋問を行わなければ、労働者が主張する残業の事実があったかどうかについて裁判所も判断できません。
迅速な解決を目指す労働審判よりも、徹底的に争う訴訟の方が適していると思われるため、24条終了がなされる可能性が高いです。 -
(2)争点が複雑であり、審理3回以内での解決が困難
労働トラブルの争点が入り組んでいて複雑な場合は、審理に時間がかかることが予想されます。
たとえば、残業代請求事件において、労使間に争いがない証拠としてタイムカードが存在するものの、会社側が、「そもそも残業代支払を要しない労働契約である(労働者性)」「割増残業代のベースとなる額はもっと低い(基礎賃金)」「休憩時間が含まれている(実労働時間)」「残業代に相当する額を既に支払っている(既払金)」といった複数の主張をし、争点が多岐にわたることが予想されるような事案が挙げられます。
争点が多いと、主張・立証もおのずとボリュームが膨らむため、3回以内で審理が終結する見込みがない場合が多く、24条終了がなされる可能性があります。 -
(3)労使の主張がかけ離れており、異議申立てが予想される
労働審判が行われた場合、当事者はその告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てることができ(労働審判法第21条第1項)、適法な異議の申立てがあったときは、労働審判は効力を失い、同じ地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされます(同法第21条第3項、第22条)。
たとえば、解雇の違法性をめぐって争われている場合に、労働者は会社に復職を要望しており解決金による決着を一切受け入れない意向を明示しているのに対し、会社側は解決金であれば支払う意向はあるがその労働者を復職させることを断固として拒否しているような場合です。
労働審判で争った後、さらに訴訟でも争うのでは二度手間になってしまいます。それよりは、最初から訴訟で争った方が手間を省けますし、所要期間の短縮にもつながります。
そのため、労働者側と使用者側の主張がかけ離れている場合など、高確率で異議申立てが予想される場合には、24条終了がなされる可能性が高いです。
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3、24条終了以外の労働審判の終了事由
24条終了のほか、労働審判は以下に挙げる事由によって終了することがあります。
参考として、これらの終了事由についても解説します。
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(1)調停成立
労働審判手続きにおける話し合いを通じて、労働者と使用者の間で、一定額の解決金の支払い等によって、解決について合意が得られた場合は、調停調書が作成されて労働審判手続が終了します。実質的な和解と言えるでしょう。
調停調書の記載は、強制執行の申立てに用いることができ(労働審判法第29条第2項、民事調停法第36条、民事執行法第22条第7号)、法的な拘束力を有するものです。
令和5年度の司法統計によれば、同年度において調停成立で終了した労働審判事件は2235件で、全体(3248件)の約68.8%と、全体の7割近くにものぼります。担当裁判官の采配によるところではありますが、調停成立を促す傾向があることは、この数値からもうかがえるところです。 -
(2)労働審判
調停が成立しなかった場合は、労働審判委員会が審判を言い渡します(労働審判法第20条第1項)。訴訟における判決に相当します。
令和5年度の司法統計によれば、同年度において審判で終了した労働審判事件は548件で、全体(3248件)の約16.9%でした。
審判について不服がある場合は、その告知を受けた日から2週間以内に、裁判所に対して異議を申し立てることができます(同条第3項)が、期間内に異議申立てがなされなかったときは、審判は、強制執行の申立てに用いることができます(同条第4項、民事執行法第22条第7号)。 -
(3)労働審判の取下げ
労働審判手続の申立ては、労働審判が確定するまでの期間であれば、その全部または一部を取り下げることが可能です(労働審判法第24条の2)。
たとえば、労働審判手続きとは別に労働者と会社が話し合ってトラブルが解決した場合などに、取り下げが行われることがあります。
令和5年度の司法統計によれば、同年度において取下げで終了した労働審判事件は246件で、全体(3248件)の約7.6%でした。
4、労働審判について弁護士に相談するメリット
労働審判の申立てを検討している場合や、労働トラブルの相手方に労働審判を申し立てられた場合は、弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士に依頼せずに、労働者本人が労働審判を申し立てることも可能ではあります。しかし、本人が対応するとなると相応の時間と労力を要しますし、精神的な負担も無視できません。何より、専門知識が不十分であることから主張や証明が失敗して、不利な結果を招くリスクがあります。
労働審判においては、会社側が弁護士を立てている場合はもちろん、会社側が弁護士を立てていない場合でも、会社側の担当者は労働者本人よりは労働基準法や労働契約法に精通していることが多いため、法的な議論において不利になってしまいます。
その他、労働審判について弁護士に相談することのメリットとしては、以下が挙げられます。
- 事案に応じて労働審判ではなく訴訟を選択すべきかどうかの助言を得られる
- 労働法や裁判例などの知識に基づき、労働審判手続きのサポートを受けられる
- 必要な証拠の種類や確保の方法についてアドバイスを受けられる
- 労働審判申立書等の裁判所に提出が必要な書類の作成を代行してもらえる
- 労働審判の期日に本人と共に同席し、説得的な主張や立証を行ってもらえる
- 労働審判から訴訟に移行しても、適切に対応してもらえる
十分な準備を整えたうえで労働審判に臨むためには、弁護士のサポートが役立ちます。労働審判へ進む可能性が出てきた段階で、お早めに弁護士へご相談ください。
5、まとめ
労働トラブルの内容からして、労働審判手続に適していない場合は、労働審判が24条終了となる可能性が高く、その場合、自動的に訴訟へ移行します。
労働審判の段階から弁護士に依頼していれば、訴訟まで一貫してサポートを受けられるので安心です。
ベリーベスト法律事務所は、労働審判に関するご相談を随時受け付けております。労働トラブルについて、どのように対処すればよいかお困りの際は、まずはお気軽にベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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