給与未払いで刑事告訴されそうな場合は? 対象となる賃金や対処方法を解説
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令和4年度に東京都内の労働基準監督署が監督指導を行った4673事業場のうち、違法な時間外労働があったものは1827事業場でした。
労働者の給料を未払いのままにしている企業は、労働者によって刑事告訴されるおそれがあります。もし刑事告訴を受けた労働基準監督署から連絡が来たら、刑事罰を回避するために、速やかに給料未払いを解消する必要があります。
本コラムでは、給料未払いの会社に対する刑事罰などの内容やよくある未払いのパターン、刑事告訴された場合の対処法などを、ベリーベスト法律事務所 銀座オフィスの弁護士が解説します。
1、給料未払いに対するペナルティの内容
まず、給料未払いを生じさせた企業に対して課される可能性がある、労働基準法に関連したペナルティについて解説します。
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(1)刑事罰
使用者は、労働者に対して、労働基準法の規定に従って賃金全額を支払わなければなりません(労働基準法第24条)。
また、時間外労働・休日労働・深夜労働をした労働者には、所定の割合以上の割増賃金を支払う必要があります(同法第37条)。
割増賃金のルールに違反した者は「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処されます(同法第119条第1項第1号)。
また、違反行為者が事業主のために行為した代理人・使用人その他の従業者である場合は、事業主にも「30万円以下の罰金」が科されます(同法第121条第1項)。
事業主が違反の計画または違反行為を知りながら、その防止または是正に必要な措置を講じなかった場合や、違反を教唆した場合も同様です(同条第2項)。 -
(2)厚生労働省ウェブサイトによる公表
労働基準法違反によって検察官送致(送検)が行われた事案については、厚生労働省のウェブサイトに掲載される資料によって公表されます。
企業名や所在地、違反の内容が公表されるため、企業としての社会的評判が大きく毀損されるおそれがあるでしょう。 -
(3)付加金の支払い
時間外労働手当・休日手当・深夜手当や有給休暇の賃金などが未払いとなっている場合は、労働者の請求により、裁判所が使用者に対して未払い額と同一額の付加金の支払いを命じることがあります(労働基準法第114条)。
ただし、付加金の請求は訴訟によらなければなりません。
実際には和解で解決することが多いため、付加金の精算が行われるケースは少ないといえます。
2、給料未払いが発生し得る賃金の種類
労働基準法上の「賃金」とは、名称の如何(いかん)を問わず、労働の対償(対価)として使用者が労働者に支払うすべてのものを指します(労働基準法第11条)。
したがって、労働者が使用者から受け取っている金銭や物が未払いとなった場合は、給料未払いとして労働基準法違反に該当します。
具体的には、以下に挙げるようなさまざまな賃金について、給料未払いが発生することがあります。
- 基本給
- 各種手当(役職手当、通勤手当、家族手当、危険手当など)
- 残業代
- 賞与
- 退職金
上記の賃金が一部でも労働契約等に従って支払われていない場合は、未払い賃金(未払い給料)の請求を検討しましょう。
3、給料未払いのよくあるパターン
以下では、給料未払いが発生する、よくあるパターンを解説します。
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(1)残業代の計算間違い
残業代の金額は、労働基準法に従って計算しなければなりません。
しかし、企業の経営者や担当者などが労働基準法に関する理解が不正確であるために、残業代の計算間違いが生じる場合があるのです。(例)- 労働時間を15分単位、30分単位などで切り捨ててしまう
- 変形労働時間制、フレックスタイム制、固定残業代制など、特殊な労働時間制について誤った取り扱いをしてしまう
労働基準法に関する理解に不安がある場合は、弁護士への相談や顧問弁護士の契約などをご検討ください。
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(2)残業時間の不適切な集計
残業時間が正しく集計されていないことも、給料未払いが発生する主な原因のひとつといえます。
(例)- 手待ち時間、始業前の準備時間、就業後の片付け時間などを労働時間に含めていない
- 労働時間の管理を労働者の自己申告に委ねており、実態と記録がずれている
- 労働者の判断によって持ち帰り残業が行われており、その時間を会社が把握していない
- 上司の指示により、タイムカードが不正に提示で打刻されている
残業時間の集計漏れを防ぐためには、勤怠管理システムを活用して機械的な管理を行うとともに、残業を許可制として、持ち帰り残業についてもすべて申告させるなどの対策を検討しましょう。
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(3)管理職に対する残業代の不支給
企業の経営者や担当者のなかには、「管理職に対しては、一律残業代を支払わなくてよい」と誤解している方が多くおられます。
労働基準法上、「管理監督者」に対しては残業代の支払いが不要とされています(労働基準法第41条だ1項第2号)。
しかし、管理監督者に該当するのは、勤務時間・権限・待遇などの観点から、実質的に経営者と一体の立場にあると認められる労働者のみです。
課長や店長などの中間管理職は、経営者と一体であるとは評価されにくいため、管理監督者に該当しないことが多いと考えられます。
管理監督者に該当しない管理職に対して残業代を支払っていない場合は、多額の給料未払いが発生している可能性があることに注意してください。 -
(4)賃金支払いの5原則違反
労働基準法第24条では、「賃金支払いの5原則」が定められています。
① 通貨払いの原則
原則として、賃金は日本円の現金で支払う必要があります。現物給与は基本的に認められません。
② 直接払いの原則
原則として、賃金は労働者本人に対して直接支払う必要があります。仲介者を通じて賃金を支払うことは認められません。
③ 全額払いの原則
原則として、賃金は全額を支払わなければならず、勝手に一部を天引きすることは認められません(源泉所得税や社会保険料などを除く)。
④ 毎月1回以上の原則
原則として、賃金は毎月1回以上支払う必要があります。
⑤ 一定期日払いの原則
原則として、賃金は一定の期日を定めて支払う必要があります。
賃金支払いの5原則に違反した場合は、給料未払いが発生することがあります。
とくによく見られるのは、業務上のミスに関する弁償代などの給料天引きです。
弁償代などの給料天引きは、天引きをされるということに労働者が真に同意していない限りは全額払いの原則に違反して、天引き額が未払いとなることに注意してください。
4、給料未払いについて考えられる労働者の対応
以下では、会社から適切に給料が支払われなかった場合に労働者がとることのできる対応を解説します。
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(1)未払い賃金の支払い請求
労働者は、会社に対して、未払いとなった賃金を最大3年間さかのぼって請求できます(労働基準法第115条、同法附則第143条第3項)。
会社からすれば、交渉や労働審判・訴訟などの法的手続きを通じて、労働者から未払い残業代を請求される可能性があるということです。
労働者からの請求を受けたら、適切な対応をとるために、速やかに弁護士に相談してください。 -
(2)労働基準監督官に対する刑事告訴
給料未払いは労働基準法に基づく刑事罰の対象とされているため、被害者である労働者は刑事告訴をすることができます(刑事訴訟法第230条)。
刑事告訴は検察官または司法警察員(警察官)に対して行うのが原則です(同法第241条第1項)。
しかし、労働基準法違反の罪については労働基準監督官が司法警察官の職務を行うため(労働基準法第102条)、労働基準監督官に対する刑事告訴もできます。
労働者は、労働基準監督署に給料未払いの相談をした際に、その流れで労働基準監督官に刑事告訴をする可能性があります。
刑事告訴が行われると、事件に関する書類や証拠物が検察官に送付され、給料未払いに関する捜査が行われます(刑事訴訟法第242条)。
その結果、労働基準法違反によって刑事罰が科されるおそれがあることに注意してください。
5、給料未払いで刑事告訴された場合の対処法
会社が給料未払いで刑事告訴されたことを知ったら、刑事罰や公表処分を避けるために迅速な対応が求められます。
実際に給料未払いが発生している場合には、速やかに未払い額を労働者へ支払いましょう。そのうえで労働者に謝罪して、刑事告訴を取り下げるように依頼することが最善です。
なお、刑事告訴を受けた労働基準監督署によって調査が行われたとしても、それほど悪質なケースでなければ、ただちに刑事罰が科される可能性は低いといえます。
労働基準監督官の調査へ誠実に協力しつつ、是正勧告等の内容に従って、速やかな是正対応を行ってください。
6、まとめ
会社が給料未払いを発生させると、労働者から刑事告訴されるおそれがあります。
万が一刑事告訴されてしまったら、刑事罰や公表処分を避けるため、弁護士のサポートを受けながら適切な対応をとることが大切です。
ベリーベスト法律事務所では、労働問題に関する企業からの相談を承っております。
労働者に未払い給料を請求されたり、刑事告訴をされたりした場合には、まずはベリーベスト法律事務所へご連絡ください。
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