施術中にわいせつ行為をした疑いをかけられたら? 適切な対応方法

2024年06月03日
  • 性・風俗事件
  • 施術 わいせつ
施術中にわいせつ行為をした疑いをかけられたら? 適切な対応方法

マッサージ店や整体などの施術で、客から「わいせつ行為をされた」といわれた場合、店側としてはどのように対応すればよいのでしょうか。

施術中にわいせつ行為をしたとされると、不同意わいせつ罪が成立する可能性があるため、すぐにでも弁護士に相談することをおすすめします。

2023年度の犯罪統計によると、東京都の不同意わいせつ罪の認知件数は769件、この内88%の676件が検挙されています。

施術がわいせつ行為とされた事例や問われる罪、逮捕の流れ、どのように対応すべきか等、ベリーベスト法律事務所 銀座オフィスの弁護士が解説します。

1、施術行為がわいせつ行為とされた事例

マッサージや整体、外科手術などの施術で、「わいせつ行為をした」として患者から追及されるケースは、全国で起こっています。

患者の勘違いであることもあれば、わいせつな意図をもって、わざと行っている犯罪行為の場合もあります。本章では、実際の事例をいくつかみてみましょう。

  • 事例1|整体師が「施術」と称して20代女性の体を触る
    鹿児島の整体師が施術と称して、20代女性の体を触るなどわいせつ行為をした疑いにより、準強制わいせつ罪で逮捕されました。逮捕された際に、整体師は「覚えていない」と容疑を否認していました。

    この事例では、覚えていないと否認していますが、施術の範囲を超え、女性の体を触ったのであれば、準強制わいせつ罪が成立する可能性が高いケースであるといえます。

  • 事例2|柔道整復師が必要な施術と誤信させわいせつ行為におよぶ
    兵庫県の柔道整復師が、治療のために必要な施術と誤信させて、陰部を数回さわるなどわいせつ行為をしたとして準強制わいせつ罪で逮捕されました。その際、柔道整復師の男は「わいせつな行為はしていない。手があたっただけ」と容疑を否認しました。

    治療のための必要な施術と誤信させて陰部を触った場合には、準強制わいせつ罪が成立する可能性が高いです。「2、わいせつな行為で問われる罪と罰則」で解説するように、患者の同意があったとしても、施術と誤信させている以上、その同意は意味のないものになってしまいます。

  • 事例3|整体師が施術中に20代女性を押し倒し性的暴行
    神奈川県の整体師が、施術中に20代女性の患者を押し倒して、性的暴行を加えたとして逮捕されました。

    施術中に患者を押し倒した場合には、準強制わいせつ罪や強制わいせつ罪が成立する可能性が高くなります。押し倒すという行為は、施術とは無関係の行為であって、医療行為とは認められないからです。

  • 事例4|外科医が執刀中にわいせつ行為をしたと訴えられた
    東京都の病院で非常勤の外科医として勤務していたXは、手術後の診察と患者に誤信させ、病室のベッド上に横たわる患者に対して、着衣をめくって胸を露出させた上、胸をなめるなどのわいせつ行為をしたとして起訴された事例です。

    一見すると明らかにわいせつ行為である事案ですが、裁判では、被害者が手術後の麻酔覚醒時に生じる妄想が原因でわいせつ行為をされたと勘違いしているとして争われました。このように、患者からわいせつ行為であると訴えられても、患者の勘違いであるとされるケースもあります。

2、わいせつな行為で問われる罪と罰則

施術中のわいせつ行為によって問われる罪や成立の条件、罰則など、基礎知識について解説します。

  1. (1)施術中のわいせつ行為は「不同意わいせつ罪」に問われる

    施術中にわいせつな行為をすると、多くは、「不同意わいせつ罪(刑法176条)」として罪を問われます。

    不同意わいせつ罪とは、「一定の条件」にあてはまる行為により、同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にさせ、または、その状態であることを利用して、わいせつ行為をすることです。

    刑法上、下記の9つの行為や事柄が「一定の条件」として規定されています

    1. ① 暴行または脅迫
    2. ② 心身の障害
    3. ③ アルコールや薬物
    4. ④ 睡眠や意識が明瞭でない状態
    5. ⑤ 同意しない意思を形成する時間がない
    6. ⑥ 予想と異なる状況にして恐怖や驚愕させた場合
    7. ⑦ 虐待を原因とする心理的反応
    8. ⑧ 経済的または社会的地位に基づく影響力によって受ける不利益を感じさせた場合
    9. ⑨ わいせつな行為ではないと誤信させ、または、人違いをさせ、または、それらを利用した場合


    施術中のわいせつ行為は、上記⑨の条件にあてはまります。なぜなら、治療に必要な行為であると患者に勘違い(誤信)させ、わいせつ行為をしているからです。

    そもそも「わいせつ行為」とは、判例上、性欲を刺激、興奮または満足させ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいいます。

    かみ砕いていえば、性欲によって、一般の人が恥ずかしさや嫌悪感をもつような性的行為におよぶことです。胸を触る、陰部の近くを触るなどの行為は「わいせつ行為」にあたる可能性が高いでしょう。

  2. (2)不同意わいせつ罪の罰則

    不同意わいせつ罪の罰則は、6か月以上10年以下の拘禁刑になります

    また、胸を触る、陰部の近くを触るといった「わいせつ行為」を超えて、性交や性交類似行為、陰部に指などを入れた場合には「不同意性交等罪(刑法177条)」が成立する可能性が高いです。この場合、罰則はさらに重くなり、5年以下の有期拘禁刑に科されることなります。

3、逮捕されたらどうなるのか

不同意わいせつ罪で逮捕されると、起訴され刑事事件化する可能性が高くなります。また、実名報道されたり、店が廃業に追い込まれたりする可能性もあります。

逮捕から起訴、判決後まで刑事事件の流れについて解説します。

  1. (1)逮捕されるまで

    被害者から被害届が提出されると、警察が事件性の有無を判断し、捜査を開始します。マッサージなどの施術中にわいせつ行為を受けた場合であれば、他の被害者もいないかも調べるでしょう。捜査の結果、わいせつ行為をした可能性が高いと判断されると、逮捕状が請求・発付され、逮捕されることになります。警察が逮捕状を持っている場合、同行を拒否することはできません

  2. (2)逮捕~起訴まで

    逮捕されると、まず警察署で取り調べを受け、48時間以内に検察への送致か釈放か判断されます。さらなる取り調べや起訴が必要と判断されると、検察庁に送致されます。検察庁での取り調べでさらに勾留請求が必要と判断されれば、原則10日、最長20日間勾留され、取り調べが続けられます。その間家に帰ることもできず、家族に接見できる時間も制限されます

  3. (3)起訴後

    検察庁での取り調べの結果、起訴されると1~2か月後に裁判所で裁判が始まります。裁判では、わいせつ行為をしたか、罪を犯したのであればどのくらいの刑罰が妥当か、審理されます。有罪判決が決定すると刑務所に入ることになります。なお、起訴後の有罪率は99%以上となり、嫌疑を晴らすには非常にハードルが高いといえます

  4. (4)判決後

    有罪判決が確定すると、懲役刑や禁錮刑の場合、刑務所に収容されることになります。もっとも、執行猶予がついた場合には家に帰り、通常の社会生活を送ることができます。ただし、有罪判決を受けた以上は前科がつくため、その後の就職や結婚等の際に、影響をおよぼす可能性があります。

  5. (5)刑事罰以外の影響

    刑事罰ではありませんが、わいせつ行為により実名報道されてしまうと、犯罪について広く知られ、日常生活を送ることが困難になるリスクが高まります。また、SNSやネットニュースで報道が流れた場合、刑期を終えた後もインターネット上に名前や事件が残り続けてしまうおそれがあります。

    また、自分の店舗やクリニックでわいせつ行為をしたのであれば、廃業に追い込まれる可能性も高いでしょう。もし勤めているマッサージ店やクリニックで罪を犯してしまった場合、民事裁判で損害賠償請求される可能性もあります。

    損害賠償請求が認められた場合、不動産や動産、預金口座、給与の差し押さえを受け、民事的責任も負う事態になるケースもあるでしょう。

4、被害届の提出や告訴をされたらどう対応すべきか

「わいせつ行為をされた」として客に被害届の提出や告訴をされた場合、どうすればよいのでしょうか。取り下げのための交渉や示談など、対処法について紹介します。

  1. (1)すぐに弁護士に相談する

    「被害届を出す」「告訴した」といわれた場合には、すぐに弁護士に相談しましょう

    被害届は警察への被害報告であり、捜査開始のきっかけとなるものです。対して告訴は、わいせつ行為などの犯罪に対して、犯人への処罰を求める訴えのため、より被害者側の怒りや処罰意識が強く、示談交渉が難しくなります。

    弁護士に、すみやかに相談し、被害届であれば取り下げのための謝罪や示談金の提示を行いましょう。告訴の取り下げが困難な場合は、不起訴を目指して弁護活動を進めることになりますが、どちらにせよ早急に弁護士の協力を求めることをおすすめします。

  2. (2)弁護士に示談交渉をしてもらう

    被害者との示談交渉は弁護士に一任するのが得策といえます。加害者が直接交渉しようとすると、かえって被害者の気持ちを追い詰めたりかたくなになったりするおそれがあるためです。また、そもそも弁護士を付けなければ警察から被害者の連絡先を教えてもらえないということもあるでしょう

    弁護士は、加害者に代わって示談交渉し、逮捕を回避するために尽力します。もっとも、被害届や告訴を取り下げてもらったからといって、確実に逮捕や起訴されないとは限りません。しかし、示談が成立すれば謝罪が受け入れられたとみなされるため、罰の軽減につながる可能性は高まります。

  3. (3)刑事事件になったら弁護活動をしてもらう

    逮捕されてしまった場合でも、弁護士は、検察官に働きかけたり、裁判所に意見を提出したりして身柄解放に向けて弁護活動を行います。ただし、家に戻れても起訴される(在宅起訴)可能性は残っています。起訴されてしまった場合には、執行猶予付きの判決などになるように弁護活動をしてもらうことになります。

  4. (4)逮捕・起訴される前が今後に大きな影響を与える

    刑事事件では、起訴されてしまうと無罪判決を得る確率はとても低くなるため、逮捕や起訴前に、どれだけ被害者と示談をし、検察官を説得できるかが重要です

    もし有罪となってしまった場合は、執行猶予付き判決になるよう、引き続き弁護活動することになります。

    「被害届を出した」「告訴した」といわれた場合や警察から連絡が来た場合、すぐに弁護士に相談し、示談交渉や弁護活動によるサポートを求めましょう。

5、まとめ

前述のように、施術中のわいせつ行為は、不同意わいせつ罪が成立する可能性があります。

昨今の不同意わいせつ罪に対する厳罰化や世間の注目度の高まりから、逮捕されれば前科がつくだけでなく、ネット上に名前が残ってしまったり、仕事を失ったりするおそれもあります。思い当たる行為をしてしまった場合には、少しでも早く弁護士に相談することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所 銀座オフィスでは、刑事事件の実績のある弁護士が問題解決に向けて迅速にサポートいたします。施術において「わいせつ行為された」といわれてしまった場合は、まずは当事務所までご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています